(釧路新聞へ掲載)


『いのちをいただく』

   『いのちをいただく』という絵本をご存知ですか。

   この物語は熊本県の食肉解体作業員、坂本さんが実際に体験したお話です。

   坂本さんは小学生のしのぶくんの授業参観に行きます。
   「いろんな仕事」という授業で、先生が親の仕事を尋ねると、食肉解体業をカッコ悪いと思っていたしのぶくんは
   「ふつうの肉屋です」と答えます。

   「おまえのお父さんが仕事をしないと、みんな肉が食べれない。すごい仕事なんだ」と先生に言われ、
   しのぶくんはお父さんの仕事を誇りに思うようになります。

   ある日、肉になる予定の牛が運ばれて来ますが、十歳ぐらいの女の子が
   「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃんが肉にならんとみんながくらせんけん。みいちゃん、ごめんねぇ」
   と牛に謝っている姿を目にします。

   坂本さんは仕事を休むことにしましたが、みいちゃんと女の子の事をしのぶくんに話すと
   「心のない人がしたら牛が苦しむから、お父さんがしてやって」と言われます。

   次の日、牛舎に入ると、最初みいちゃんは坂本さんを威嚇しますが
   「みいちゃん、ごめんよう。みいちゃんが肉にならんと、みんなが困るけん。ごめんよう」
   と言うと、首をこすりつけ甘える仕草をするみいちゃん。

   「みいちゃん、じっとしとけよ。動いたら急所をはずすけん、そしたら苦しかけん、じっとしとけよ。」
   と言った時、みいちゃんの目から涙がこぼれ落ち、坂本さんは牛が泣くのを初めて見ます。
   そして、その瞬間もみいちゃんは少しも動かず…。

   後日、女の子のおじいちゃんが坂本さんにお礼に来て言いました。
   みいちゃんの肉を少し貰ってみんなで食べたそうで、最初食べなかった女の子に
   「みいちゃんのお蔭でみんなが暮らせる。みいちゃんにありがとうと言って食べてやらないと、
   みいちゃんが可哀想だろう」と言うと、女の子は泣きながら
   「みいちゃん、いただきます」と言って食べたそうです。

   たくさんの命のお蔭で生かされている感謝の言葉、「いただきます」。

   7月26日記

   
   NPO法人ドッグレスキューしおんの会
   代表 福澤